物流業界の人材不足の深刻化
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拡大を続ける電子商取引(EC)市場、労働人口の不足から、物流業界では慢性的人手不足にあえいでいます。日本全体の高齢化が進むことによる労働力不足が背景にあるとはいえ、近年特に叫ばれている物流業界での人材不足はなぜ発生したのでしょうか。
減少する労働人口と増える物流需要
拡大するECの伸展から荷物数量が増加した結果、「宅配クライシス」という言葉で、世間から物流危機とドライバー不足が注目されるようになりました。2006年の92万人をピークにドライバー数は年々減少を続け、全日本トラック協会発表(2017年)によると、ドライバー等輸送・機械運転従事者は83万人と発表されています。
日本では物流に関わるコストの約6割は、輸配送の分野で発生しています。その第一線で活躍するドライバー就業者は40歳未満が全体の約28%となりますが、50歳以上は約40%を占め、さらに年齢を積み上げていくベテランドライバーに頼らざるを得ない状態が続いています。
総務省発表の人口推計(2018年)のデータによると、労働力となる15~64歳までの人口は7596万2000人、前年比60万人の減少となりました。15~64歳は1992年(69.8%)にピークを迎えた後、緩やかに低下を続けており、このまま進めば2030年には68%、2045年には50%台にまで減少すると予想されています。
人口減少の余波は、労働力・人手不足と直結しているため、今後はさらに深刻な状態を迎えることとなります。物流業界、特に近年問題となっているドライバー不足問題は、中高年層の男性労働力に依存していることが大きな要因です。
ホワイト物流推進運動
物流業は労働条件が過酷なため、建設業と並び<キツい、汚い、危険>の3Kと言われます。トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して大型トラックドライバーで約1割低く、中小型トラックドライバーは約2割低いと言われています。
また年間労働時間は長時間の荷待ち時間、車両からの荷下ろしなど、長時間の荷役時間が要因し、全産業平均と比較して大型トラックドライバーで約1.22倍、中・小型トラックドライバーで約1.21倍となっています。
この環境を打破するため、国土交通省、経済産業省、農林水産省の各省庁が横串を通した「ホワイト物流」推進運動で、物流業界の体質改善にメスを入れています。
「トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化」「女性や60代以上の運転者等も働きやすい、よりホワイトな労働環境の実現」がその目的です。就職希望者の減少や離職率の増加を防ごうというものです。現在は製造・卸・小売などの大手企業を中心に賛同も声を上げています。
EC伸展と宅配ボックス
経済産業省「電子商取引調査」(2019年5月発表)によると、2018年の日本国内のBtoCのEC市場規模は18.0兆円(前年比8.96%増)、BtoB市場は344.2兆円(同8.1%増)に拡大しています。
越境ECの市場規模をみると、日本→米国は7128億円(前年比15.8%増)、日本→中国は1兆2978億円(前年比25.2%増)。特に中国消費者による越境EC購入額の拡大が目立っています。
ECの伸展から荷物数量が増加した結果、「宅配クライシス」という言葉で、ドライバー不足が注目されるようになりました。宅配便の急増から派生したのが再配達の増加です。トラック輸送に頼る宅配便は、CO2排出量増加という環境問題のほか、ドライバー不足を助長するものとして大きな社会問題になっています。
国土交通省では、こうした問題に対応するため「総合物流施策推進プログラム」の中で、宅配便の再配達率の削減目標を2017年度は16%程度、2020年度は13%程度に設定して対策に取り組んでいます。ECの利用普及がさらに進めば、宅配便の取扱件数も比例します。
国土交通省では約2割に迫る再配達を労働力に換算すると、年間約9万人のドライバーの労働力に相当するとしています。再配達コストを可能な限り削減しなければ、現在の物流システムは維持できなくなる恐れもあります。
再配達を減らすための方策としては、「時間帯指定」「メールなどのコミュニケーションツール」「コンビニ受け取りや駅の宅配ロッカー」「宅配ボックス」などの活用が必須です。
2018年9月に改定された建築基準法では、オフィスや商業施設などにも宅配ボックスの設置が容易となりました。容積率規制の対象外とするよう設置規制を緩和したものです。
国土交通省と経済産業省が共催した「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」によると、あるEC事業者は東京23区内で1時間単位の配達時間指定を導入し、配達当日には30分単位でメールなどによる到着予定時間通知をした結果、サービス利用者の不在率が2%台に減少したといいます。
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人手不足を解消するために取り組むべきこと
人材の不足が深刻化する物流業界で、高いニーズを持つのがAIやIoTなど最新テクノロジーの導入です。富士経済の発表によれば、ロボティクス、IoT、AI等をキーワードとした次世代物流システム・物流サービス市場は、2025年に3兆8743億円(2017年比89.1%増)に達する予測となり、当面は拡大基調が続くものと予測されています。
2018年現在、物流倉庫は省力化などの設備投資が進んでいますが、人手不足が解消されていません。帝国データバンクの2017年10月調査によると、「運輸・倉庫」業の約6割が従業員不足という回答がありました。
倉庫業はトラックドライバーに合わせて業務を行う場合もあるため、長時間労働になりやすいことも指摘されています。
Amazon事例
あまり知られていませんが、Amazonの日本法人・アマゾンジャパンは倉庫業の資格を有する物流業者です。最大の成長戦略として物流強化を目指し、売上高の10%を物流に投資しています。
自社配送化を進めるAmazonは、売り上げの10%程度を物流関連事業に投資、物流センターの管理を行うのはMBAを取得した社員。経営学修士となるMBA修得者で年収1000万円プレイヤーばかりです。数値を元にした管理を徹底化させ、KPIを基準にした日々の業務改善を行っています。Amazonは在庫回転率を上げ、物流センターに保管する期間を短くすることで発送前のキャンセルを防ぎ、負担を回避しています。
Amazonのような資金力を持たない企業は、最適なサプライチェーンの構築、運用管理には、需要予測や生産計画の精度向上、IoTを活用したサプライチェーン在庫情報の共有化など、IoT、AI、ビッグデータの活用など、テクノロジーに期待するのも一策です。
新たな輸送モデルの構築にはデジタルネットワークを通じた統合管理による共同輸配送システムが最適です。在庫、輸配送関連情報データベース(オープンプラットフォーム)とAIを活用したマッチングシステムなどがよいでしょう。
その他、 RFID、ウェアラブル端末、アシストスーツ、ロボット台車の活用による業務改善の高速化や生産性向上、作業動線や業務データの自動的入手と分析が実現します。
しかし、テクノロジーに大きな期待が寄せられている一方で、それを担う高度な人材が圧倒的に不足しており、育成環境が整っていないのが実状です。そこで欠かせないのが、運用管理を経営と全体最適の視点からマネジメントできる人材の育成が第4次産業革命の下で求められています。
夜中の出荷作業を無人フォークリフト(AGF)による完全無人化の事例も見られるようになりましたが、物流現場では当面の間、ロボットと人間の共存が鍵を握ります。
RFIDをキーデバイスにしたアパレル企業
アパレル業界ではUHF帯RFIDの導入が盛んに行われています。海外の製造段階で商品にRFIDを付け、生産、物流、販売までを一貫して管理。人間が行うのはピッキング作業のみで、必要とされる作業員が10分の1にまで削減しました。
RFIDを導入するメリットのひとつが月1回程度行われていた棚卸作業です。テニスラケットのようなアンテナをラックにある商品にかざすだけで正確な数量を検知できるため、店舗の棚卸作業の場合は数分で完了することも。物流センターでも当該作業時間が大幅減少しました。
また、無人搬送ロボットを導入した通販発送センターでは、ピッキングに必要な商品が入っているラックをピッキングエリアまで自動搬送させるロボットを導入しています。
従来作業では人間が所定の棚まで歩き、必要な商品を必要数ピッキングしてきましたが、歩き回る労力と時間を大幅削減。作業効率は約4.2倍アップしたといいます。
ロボットまでの導入ではなく、音声認識によるハンズフリー作業で作業ミスを削減した事例もあります。ヘッドセットを用いて、システムから流れる指示を受けながらピッキングを行い、数量や商品名の音声入力を行います。ピッキングリストやハンディ端末を持たず、ハンズフリーによる作業で効率化が実現しました。
まとめ
物流分野のテクノロジーは今後、さらに技術が進歩し、作業効率が格段に上がっていきます。課題解決のためのソリューションとして、状況に合ったITの導入を進め、人材不足の一助にしてみるのはいかがでしょうか。
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