HACCPにおける危害分析の方法や注意点を解説
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危害分析とは?
HACCPにおける危害分析(危害要因分析)とは、食品の製造工程に潜む危害要因(ハザード)を洗い出し、「発生しやすさ」「発生したときの健康被害」を分析する手法です。危害分析を適切に行うことで、食品事故のリスクがとくに大きい製造工程を発見し、重点的な衛生管理を行うことができます。
とくに重大な危害要因が潜む製造工程のことを「重要管理点(CCP)」と呼びます。
危害要因といっても、生物学的危害要因、化学的危害要因、物理的危害要因の3種類があり、それぞれについて正しい知識を持つことが大切です。
生物学的危害要因 | ・病原細菌 ・腐敗微生物 ・ウイルス ・寄生虫 ・病原微生物 |
---|---|
化学的危害要因 | ・カビ毒 ・重金属 ・食品添加物 ・農薬 |
物理的危害要因 | ・異物混入 |
[注1]
HACCPの導入手順と危害分析を行う時期
HACCPを導入する場合、コーデックス委員会(国際食品規格委員会)が作成した7原則12手順を参考にしましょう。
手順1 | HACCPチームを編成する |
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手順2 | 製品説明書を作成する |
手順3 | 製品の用途や対象となる消費者を確認する |
手順4 | 製造工程一覧図を作成する |
手順5 | 製造工程一覧図の現場確認を行う |
手順6【原則1】 | 危害分析(危害要因分析)を実施する |
手順7【原則2】 | 重要管理点(CCP)を特定する |
手順8【原則3】 | 管理基準(CL)を設定する |
手順9【原則4】 | 衛生管理のモニタリング方法を決める |
手順10【原則5】 | 衛生管理の改善方法を決める |
手順11【原則6】 | 衛生管理の検証方法を決める |
手順12【原則7】 | 衛生管理の記録方法を決める |
このうち、危害分析は製品説明書や製造工程一覧図の作成を終えた手順6【原則1】で実施します。危害分析の流れは後ほど詳しく説明します。
危害分析を行う3つのメリット
そもそも、危害分析を行うメリットはなんでしょうか。HACCPの考えを取り入れ、製造工程を見直すメリットを3つ紹介します。
危害要因を全従業員で共有し、衛生意識を高められる
食品の危害要因によっては、現場の従業員全員での認識共有が行われていないものもあります。危害分析を実施し、製造工程に潜む危害要因を全従業員で共有することで、さらに衛生意識を高めることが可能です。
厚生労働省の「HACCPの普及・導入支援のための実態調査結果」によると、HACCP導入のメリットとしてもっとも多く挙げられたのが、「社員の衛生管理に対する意識が向上した(78.2%)」というものでした。[注2]
衛生管理の優先順位付けを行い、食品事故のリスクを低減する
危害分析は、製造工程に潜む危害要因をただ列挙するだけではなく、「発生しやすさ」「発生したときの健康被害」といった観点から危害要因を分類します。危害要因の優先順位付けを行うことで、食品リスクの観点でより重要度の高い製造工程(=重要管理点)を特定し、限られたリソースで効率的に衛生管理を行うことができます。
厚生労働省の調査によると、HACCPを導入した企業の32.3%が「クレーム、事故が減少した」と回答し、効果を実感しています。[注2]
万が一食品事故が起きたときの対応を迅速化できる
危害分析を実施すれば、製造工程で発生しうる食品リスクが可視化されるため、万が一食品事故が起きたときの原因究明や初動対応をスピードアップできます。厚生労働省の調査でも、「製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった」と37.7%の企業が回答しています。[注2]
危害分析をきちんと行うことで、上記のようなメリットが得られます。下記の方法を参考に、慎重に危害分析を行ってください。
HACCPの考え方に基づく危害分析の方法
それでは、HACCPの考え方に基づく危害分析の方法を説明します。まず大切なのは「製品説明書」を作成し、製造する食品の特徴を明らかにすることです。危害分析の流れを5つのステップに分けて解説します。
「製品説明書」を作成し、食品の特徴を書き出す
危害分析の実施にあたって、まず「製品説明書」を作成しましょう。製品説明書とは、製造する食品の原材料や特徴、レシピなどをわかりやすくまとめた資料です。
たとえば、厚生労働省の「食品製造におけるHACCP入門のための手引書」では、以下の項目を作成例として挙げています。[注3]
- ・製品の名称や分類
- ・原材料について注意すべき事柄
- ・添加物の名称や使用量
- ・製品に課せられた衛生規範(一般生菌数など)
- ・自社基準での衛生規範
- ・製品の保存方法
- ・消費期限や賞味期限
- ・製品のユーザー
とくに「原材料について注意すべき事柄」の項目では、アレルギー物質の有無を抜け漏れなく書き出しておくことが大切です。
食品が「誰に」「どのように」使われるのかを考える
製品説明書には、食品についての情報だけでなく、その食品が「誰に」「どのように」使われるのかも記載します。厚生労働省の手引書に記載された「製品のユーザー」「消費期限や賞味期限」といった項目が該当します。製品説明書を作成するときは、ユーザー目線に立つことも大切です。
製造工程を全て洗い出し、「製造工程一覧図」を作成する
製品説明書を作成したら、その食品の仕入れから出荷までの製造工程を全て洗い出し、「製造工程一覧図」を作成します。製造工程を書き出してから、各工程を「汚染区域」「準清潔区域」「清潔区域」の3種類に分類しましょう
汚染区域 | 外部環境に接し、食品が汚染されるリスクがある区域 原材料の仕入れ、具材の保管など |
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準清潔区域 | 汚染区域から食品を受け入れ、食品を清潔に保つ区域 具材の解凍、下処理、加熱など |
清潔区域 | 最終製品を取り扱い、最高レベルの清潔を保つ区域 最終製品の保管、製品検査、出荷など |
現場にヒアリングを行い、製造工程一覧図の妥当性を検証する
製造工程一覧図が妥当かどうか、実際に製造工程と剥離していないかを確認するため、必ず現場にヒアリングを行いましょう。現場のフィードバックを受け、必要に応じて製造工程一覧図を修正します。
製品説明書や製造工程一覧図を参照し、危害要因を列挙する
製品説明書や製造工程一覧図を参照し、各製造工程に潜む危害要因を列挙していきます。着眼点となるのは、予防(持ち込まない、つけない、増やさない)と、除去・低減(なくす)の2つの考え方です。[注3]
また、危害要因の優先順位付けのため、一般衛生管理の範囲で対応できないものや、予防と除去・低減の両方が必要なものについては、「重大な危害要因」として記載します。
危害分析を行う際の2つの注意点
危害分析を行う際、注意しなければならない点が2つあります。
まず、危害分析を正確に行うには、食品製造に関わる全ての担当者を巻き込むことが大切です。必ず現場へのヒアリングを行い、実際の食品製造の流れに沿って危害分析を実施しましょう。
また、危害要因を行うこと自体がHACCPの目的ではありません。HACCPの目的は、危害要因に基づいて重要管理点(CCP)を特定し、管理基準(CL)を設定することです。HACCP導入の全体の流れを意識し、危害分析を行うことが大切です。
全ての担当者を巻き込んで行う
危害分析を行うときは、なるべく全ての担当者を巻き込み、食品の危害要因についての認識を共有することが大切です。
HACCP導入のよくある失敗として、社内の情報共有ミスが挙げられます。たとえば、食品の危害要因について、特定の部署では認識していたものの、全社的に共有されていなかったため、十分な危害要因分析ができなかったといったケースです。
また、危害要因についての認識を全従業員で共有すれば、現場の衛生意識の向上にもつながります。危害分析を行うときは、各部署の担当者や、現場の監督者、作業員などの全ての関係者を巻き込み、製品説明書や製造工程一覧図といった資料も共有しましょう。
リソースに余裕があれば、専門のHACCPチームを編成するのも効果的です。
重要管理点(CCP)の特定や管理基準(CL)の設定を視野に入れて行う
そもそも危害分析を行う目的は、製造工程のうちとくに衛生管理の必要性が高い重要管理点(CCP)を特定し、清潔さを維持するための管理基準(CL)を設定することにあります。
HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)という名称が、HA(危害分析)+CCP(重要管理点)の2つの組み合わせからできているのも、それが理由です。
したがって危害分析を実施するときには、ただ単に製造工程のリスクを洗い出すだけではなく、製造工程のうちどの工程が重要管理点(CCP)に該当するか、危害要因を取り除くためにはどのような管理基準(CL)を設定する必要があるか、といった意識を持つことが大切です。
まとめ
HACCPにおける危害分析(危害要因分析)は、食品の製造工程に潜む危害要因(ハザード)を列挙し、重点的な衛生管理を行っていくうえで欠かせないプロセスです。
危害分析を行えば、食品事故のリスクを低減し、万が一問題が起きたときの対応を迅速化できるだけでなく、従業員の衛生意識の向上にもつながります。ただし、危害分析を行うこと自体がHACCPの目的ではありません。重要管理点(CCP)の特定や、管理基準(CL)の設定を視野に入れつつ、正しい方法で危害分析を実施しましょう。
[注1]食品産業センター:生物的危害要因
[注2]厚生労働省:HACCPの普及・導入支援のための実態調査結果[pdf]
[注3]厚生労働省:食品製造におけるHACCP入門のための手引書[大量調理施設における食品の調理編]
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