HACCP導入の7原則12手順とは?プランの作成方法を具体例を用いて解説
Contents
HACCPとは
HACCP(ハサップ)とは、「食品の異物混入や食中毒菌の増殖といった危害要因(ハザード)を取り除き、食の安全を守るための衛生管理手法」を意味します。
HACCPは国際的に認められた衛生管理手法で、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関「コーデックス委員会(食品規格委員会)」によって定められました。食品製造における「危害要因」とは、飲食や喫食によって消費者の健康を脅かす恐れのある要因のことで、病原微生物やウイルスなどの生物的危害、残留農薬やアレルギー物質などの化学的危害、金属片やガラス片などの物理的危害の3つに分けられます。
この3つの危害要因を取り除くため、食品製造の全行程を洗い出し、とくに重要な工程を管理することを目指すのが、HACCPに基づく食品衛生管理です。日本でもアメリカ、カナダ、EUなどの欧米諸国に続き、令和3年6月よりHACCPに基づく食品衛生が義務化されました。
HACCP導入のための7原則12手順とは?
HACCPに基づく食品衛生管理は、どのように行えばよいのでしょうか。コーデックス委員会は、HACCPの実施手順として「7原則12手順」を定めています。これからHACCP対応を行う食品事業者は、「7原則12手順」に沿って実施しましょう。
日本食品衛生協会の解説に基づき、「7原則12手順」を以下の表にまとめました。[注1]
手順1 | HACCPチームの編成 | まずはHACCP対応を進めるにあたって、企業や事業所内の各部門から食品衛生の専門的知識を持った人員を募り、HACCPチームを編成します。専門的な知識がある人員がいない場合は、HACCPチームのアウトソースも検討しましょう。 |
---|---|---|
手順2 | 製品説明書の作成 | 食品に使われる原材料やアレルギー物質など、製品の基礎資料(製品説明書)を作成します。この基礎資料は、のちの危害要因分析(手順6)で使用します。厳格なフォーマットでなくても、製品の特徴がはっきりわかれば、簡単なレシピや仕様書であってもかまいません。 |
手順3 | 製品の用途や対象の確認 | 製品の使用方法(加熱などの調理方法)や、製品の主要なターゲットである消費者の特徴を洗い出します。製品説明書の作成の際に、同時に盛り込んでしまっても大丈夫です。 |
手順4 | 製造工程一覧図(フローダイアグラム)の作成 | 原材料の受け入れから製品の出荷までのすべての製造工程を書き出し、一覧図(フローダイアグラム)にまとめます。 |
手順5 | 製造工程一覧図(フローダイアグラム)の現場確認 | 製造工程一覧図(フローダイアグラム)が完成したら、現場レベルの担当者や従業員に確認してもらい、実際の人・モノの動きを反映させていきます。 |
手順6(原則1) | 危害要因分析の実施 | 手順5および6で作成した製造工程一覧図(フローダイアグラム)に基づき、各製造工程で発生しうる危害要因(ハザード)を洗い出し、対処法を決めていきます。このとき、手順2で作成した製品説明書があると便利です。 |
手順7(原則2) | 重要管理点(CCP)の決定 | 手順6(原則1)で分析した危害要因のなかでも、とくに重要度が高いもの(食中毒菌の増殖や、金属片の混入など)を抽出します。これを「重要管理点(CCP)」といいます。重要管理点(CCP)を決定し、重点的に衛生管理を実施していきます。 |
手順8(原則3) | 管理基準(CL)の設定 | 特定した重要管理点(CCP)に対し、「どうすればリスクを取り除けるか」「どのレベルまで衛生管理を行うのか」といった基準を決めていきます。これを管理基準(CL)といいます。 |
手順9(原則4) | CCPのモニタリング方法の設定 | 各製造工程において、重要管理点(CCP)がケアできているか、適切な衛生管理が行われているかをモニタリングする方法を決めます。 |
手順10(原則5) | CLの改善措置の設定 | 重要管理点(CCP)のモニタリングを実施した結果、管理基準(CL)を逸脱した衛生管理が行われていたことがわかったとき、どのような改善措置をとるかを決めます。 |
手順11(原則6) | HACCP計画の検証方法の設定 | 定期的にHACCP計画全体を見直し、改善が必要な部分がないか検証する仕組みをつくります。HACCP計画を見直す頻度は、およそ半年に1回が目安です。 |
手順12(原則7) | 衛生管理の記録および保存方法の設定 | HACCPに基づく衛生管理を記録および保存する方法を決めます。万が一食品事故が発生したとき、衛生管理記録が保存されていれば、スムーズな原因究明が可能です。また、保健所(食品衛生監視員)の立入検査があった際、衛生管理記録が保存されていなければ、指導が入る恐れがあります。 |
なお、業種によっては、さらなる衛生管理手順が必要なケースもあります。厚生労働省のホームページでは、HACCP導入に向けた業種別の手引書が用意されています。令和3年6月のHACCP義務化に備え、早めにHACCP体制づくりに取り組みましょう。
[注1]公益社団法人 日本食品衛生協会:HACCP(HACCP導入のための7原則12手順)
HACCP7原則の準備段階の5手順
HACCPの7原則12手順のうち、前半の5手順はHACCPに沿った衛生管理を実現するための準備段階について定めています。
まずはHACCPの運用推進を担うHACCPチームの編成を始めとして、製品の基礎資料となる製品説明書の作成や、すべての製造工程を一覧化した製造工程一覧図の作成を行います。製造工程一覧図を作成するときは必ず現場確認を実施し、現場で気づいたことを資料に反映させましょう。
手順1 | HACCPチームの編成 |
---|---|
手順2 | 製品説明書の作成 |
手順3 | 製品の用途や対象の確認 |
手順4 | 製造工程一覧図(フローダイアグラム)の作成 |
手順5 | 製造工程一覧図(フローダイアグラム)の現場確認 |
HACCP7原則を実現するための7手順
後半の7手順では、HACCPに沿った衛生管理の具体的な実現方法について定めています。
まずは製造工程に潜む危害要因を洗い出し、重篤度の高いものを重要管理点(CCP)として設定して、科学的な管理基準(CL)に基づいて防止策を検討するのがHACCPに沿った衛生管理のポイントです。重要管理点や管理基準が古くなっていないかどうか、定期的にモニタリングや改善措置を実施することも大切です。
また、食品事故が発生したときに備え、衛生管理の記録を必ず保存しておきましょう。
手順6(原則1) | 危害要因分析の実施 |
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手順7(原則2) | 重要管理点(CCP)の決定 |
手順8(原則3) | 管理基準(CL)の設定 |
手順9(原則4) | CCPのモニタリング方法の設定 |
手順10(原則5) | CLの改善措置の設定 |
手順11(原則6) | HACCP計画の検証方法の設定 |
手順12(原則7) | 衛生管理の記録および保存方法の設定 |
【具体例】HACCP導入までの準備段階
HACCP導入のための7原則12手順のうち、手順1から5までは衛生管理の仕組みづくりに向けた準備段階に当たります。
HACCPの導入・推進を担う「HACCPチームの編成」を終えたら、手順2から3の製品説明書の作成や、手順4から5の製造工程図の作成に取り組みましょう。HACCP導入までの準備段階について具体例を挙げながら解説します。
(手順2~3)製品説明書の作成
製品説明書とは、食品の衛生管理に必要な原材料、添加物、製品の規格(成分規格)、製造基準、留意点などの情報をまとめた書類です。
また、手順3において製品の用途や対象者を確認し、製品説明書に盛り込む必要があります。例えば、清涼飲料水の製品説明書を作成する場合、厚生労働省のガイドラインにしたがって以下の項目を記載しましょう。[注1]
製品名 | 清涼サイダー |
---|---|
製品の名称及び種類 | 製品の名称:透明炭酸飲料(びん詰) 種類:清涼飲料水 |
原材料に関する事項 | 水(水道水)、異性化液糖 |
添加物の名称とその使用量 | クエン酸、クエン酸ナトリウム、香料、炭酸ガス |
製品の規格(成分規格) | 食品衛生法の成分規格 ・混濁したものであってはならない ・沈殿物のあるものであってはならない ・ヒ素、鉛、カドミウム非検出 ・スズ含有量:150.0ppm以下 ・大腸菌群:陰性 |
保存方法 | 直射日光、高温多湿を避け保存 |
消費期限又は賞味期限 | 製造日より1年 |
対象者 | 一般の消費者 |
(手順4~5)製造工程図の作成
手順4から5では、原材料の受け入れから最終製品の出荷までの製造工程図を作成し、現場確認をおこないます。
製造工程を書き出すだけでなく、清潔区域や準清潔区域などの作業区分も明確化することで、製品や原材料の汚染を防ぐことができます。
また、なるべく従業員がいる状況で現場確認を実施し、気づいた点をメモしましょう。例えば、清涼飲料水の製造工程図は以下の通りです。[注1]
準清潔区域 | 受入 |
---|---|
保管 | |
清潔区域 | 計量 |
調合 | |
ろ過 | |
冷却 | |
炭酸ガス圧入 | |
充填 | |
密栓 | |
準清潔区域 | 加温 |
箱詰 |
【具体例】HACCP導入の7原則
HACCP導入の7原則は、食品の危害要因を分析し、科学的な基準に基づいて管理するための重要なプロセスです。
ここでは、HACCPにおける7原則を「危害要因分析」「重要管理点(CCP)の決定」「CCP整理表の作成」の3つに分けて、具体例を挙げながら解説します。
(原則1~2)危害要因分析と重要管理点(CCP)の決定
HACCPに沿った衛生管理では、原材料や製造工程に由来する危害要因を分析し、科学的な基準に基づいて取り除きます。
また、製造工程のなかでも特に衛生管理に与える影響が大きいものを洗い出し、重点的に管理するのもHACCPに沿った衛生管理の特徴です。
ここまでの流れをまとめると、以下のようになります。
○原材料に由来する危害要因や、製造工程のなかで発生しうる危害要因を洗い出す
○列挙した危害要因のうち、重大な危害要因かどうかを判断する
○重大な危害要因だと判断した根拠を書き出す
○重大な危害要因を取り除くための管理手段を挙げていく
○重大な危害要因が、重要管理点(CCP)に当たるかどうかを考える
○以上の内容を危害要因リストにまとめる
例えば、清涼飲料水の危害要因分析や重要管理点の決定をおこなう場合を考えてみましょう。
製造工程図をもとに各工程の食品リスクを分析し、「重大な危害要因か」「重要管理点(CCP)か」などを判断していきます。
以下の危害要因リストは、厚生労働省の手引きに準拠したモデル例です。[注1]
この場合、受入や計量、調合における危害要因は後の工程で除去できるため、炭酸ガス圧入における危害要因をCCPとして設定します。
工程 | 予想される危害要因 | 重大な危害要因か | 判断した根拠 | Yesとした危害要因の管理手段 | CCPか | |
受入 | 異性化液糖 | 微生物の存在 | Yes | 原料中に存在している可能性がある | 炭酸ガス圧入工程で静菌できる | No |
異物の混入 | Yes | ろ過工程で除去する | No | |||
水道水 | 水道水水質基準に不適合 | No | 受水時の衛生管理を遵守する | |||
炭酸ガス | 食品衛生法に不適合 | No | 品質保証書を確認する | |||
保管 | 異性化液糖 | 微生物の増殖・汚染 | No | 水分活性が低くおこりにくい 衛生的に取り扱う |
||
計量 | 異性化液糖 | 微生物の汚染 | No | 計量作業マニュアルで衛生的に取り扱う | ||
異物の混入 | Yes | 衛生的に取り扱う | ろ過工程で除去する | No | ||
調合 | 異性化液糖 | 微生物の増殖・汚染 | No | 異物の混入 | 短時間で衛生的に取り扱う | |
異物の混入 | Yes | 衛生的に取り扱う | ろ過工程で除去する | No | ||
ろ過 | 微生物の汚染 | No | 保守点検で管理する | |||
冷却 | 微生物の増殖・汚染 | No | 短時間で衛生的に取り扱う | |||
炭酸ガス圧入 | 微生物の増殖・汚染 | Yes | 炭酸ガス圧入不足により微生物の静菌効果が減少する可能性がある | 炭酸ガスの圧力と液温を適切に管理する | CCP | |
充填 | なし | |||||
密栓 | 微生物の汚染 | No | 施設の衛生管理を遵守する | |||
加温 | なし | |||||
箱詰 | なし |
(原則3~7)CCP整理表の作成
重要管理点を特定したら、食品の安全を保つための科学的な管理基準(CL)を決定し、CCP整理表を作成します。
CCP整理表は現場担当者を交えながら定期的に見直し、改善していくことが大切です。例えば、先ほどの清涼飲料水の例では、重要管理点を「炭酸ガス圧入」だと特定しました。
微生物の増殖・汚染を防ぐため、炭酸ガスの圧力や液温の管理基準を設定し、炭酸ガス圧入担当者が定期的に圧力計および温度計で確認・記録するようにします。[注1]
工程 | 炭酸ガス圧入 |
危害要因 | 微生物の残存 |
発生要因 | 炭酸ガス圧入不足により微生物の静菌効果が減少する可能性がある |
管理手段 | 炭酸ガスの圧力と液温を適切に管理する |
管理基準(CL) | 炭酸ガスの圧力が22kPa以上あり液温が5℃以下であること |
モニタリング方法 | 炭酸ガス圧入担当者がスタート時および30分ごとに炭酸ガスの圧力が22kPa以上で液温が5℃以下であることを圧力計および温度計で確認し、記録する |
[注1]厚生労働省:食品製造におけるHACCP入門のための手引書[清涼飲料水編]
従来の衛生管理との違い
HACCPが本格的に導入される以前は、「抜き取り検査」に基づく食品衛生管理をおこなっていました。
抜き取り検査とは、一般的に製品出荷時の最終製品検査において、製品のサンプルを抜き取り、異物混入や病原微生物汚染がないか確認する手法です。この抜き取り検査には、「サンプルに問題が見つかれば、同じロットの製品すべてが廃棄となる」「問題のある製品が、サンプル抜き取りから漏れる可能性がある」という2つの問題点がありました。
一方、HACCPは危害分析に基づいて、すべての工程の食品リスクを予測し、未然に防ぐための衛生管理を徹底する手法です。衛生管理体制の構築に手間がかかるものの、偶然性の高い抜き取り検査よりも効率的に食品事故を防げます。
また、HACCPに基づく衛生管理では、衛生管理記録の作成や保存をおこないます。そのため、食品事故が発覚したとき、衛生管理を参照して迅速に食品事故の原因を特定することが可能です。
従来の衛生管理ではなく、HACCPに基づく衛生管理を導入するために重要なのが、HACCPの7原則12手順です。
たとえば、手順6(原則1)では、最終製品検査だけでなく、すべての製造工程の危害要因(ハザード)を分析することが求められます。また、手順7(原則2)や手順8(原則3)では、危害要因のうち重要度が高いものを重要管理点(CCP)に決定し、科学的根拠に基づく管理基準(CL)を設定します。
抜き取り検査に代表される従来の手法を脱却し、新たな衛生管理体制を構築するには、HACCPの7原則12手順を遵守することが大切です。
HACCPのモニタリングの重要性
HACCPの7原則と12手順のうち、とくに重要なのが「(手順9)【原則4】モニタリング方法の設定」です。
HACCPのモニタリングでは、「(手順8)【原則3】管理基準の設定」で設定した、食品衛生管理の「管理基準(CL)」が守られているかどうかを監視します。
たとえば、各工程の「食品の保管温度」「焼成時間の長さ」が、所定の基準値を守っているかどうかを温度計やタイマーなどでモニタリングします。
HACCPの管理基準を満たさない食品は、十分に安全が確保されていません。しかし、各工程のモニタリングを行わなければ、食品が本当に管理基準を満たしているかどうかがわかりません。
また、不合格品や不適合品がが発生したとき、迅速な改善措置がとれません。HACCPのモニタリングは、食品事故を防ぎ、消費者の食の安全を守るうえで欠かせない工程です。
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HACCP7原則12手順のまとめ
HACCPに基づく食品衛生管理は、コーデックス委員会が定めたHACCPの実施手順「7原則12手順」に沿って実施します。業種によっては、さらなる衛生管理手順が必要な場合もあるため、厚生労働省「HACCP導入に向けた業種別の手引書」をよく確認しましょう。
「7原則12手順」のうち、「(手順8)【原則3】管理基準の設定」で設定した食品衛生管理の「管理基準(CL)」が順守されているかを監視する「(手順9)【原則4】モニタリング方法の設定」が特に重要です。食品事故の防止、消費者の食の安全を守るためにも、しっかりモニタリングできる方法を選択しましょう。
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