介護施設・高齢者施設におけるHACCPの導入を徹底解説
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HACCPとは?
HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)とは、コーデックス委員会が制定し、アメリカやEU、カナダなどで国際的に取り入れられている衛生管理の手法です。
HACCPに沿った衛生管理の特徴は、食品事故を引き起こす危害要因(ハザード)を分析し、衛生管理上の重要性が高い工程を特定する点にあります。従来方式の衛生管理と比べて、異物混入や食中毒などの食品事故をより効果的に防ぐことができます。
介護施設・高齢者施設におけるHACCPの導入義務化はいつから?
2018年6月に食品衛生法の一部が改正された結果、原則としてすべての「食品等事業者」にHACCPに沿った衛生管理が義務付けられました。食品等事業者とは、食品の製造・加工・調理・販売を行う事業者を指す言葉です。
介護施設や高齢者施設の場合も、食品の調理や販売、利用者への提供を行っている場合は、HACCPに沿った衛生管理が義務化されます。ただし、介護施設や高齢者施設の規模によって、HACCP義務化の対象とならない場合があります。[注1]
学校や病院等の営業ではない集団給食施設もHACCPに沿った衛生管理を実施しなければなりませんが、1回の提供食数が20食程度未満の施設は対応が不要です。
つまり、入居者数や利用者数が少なく、提供食数が20食を下回る介護施設・高齢者施設の場合、HACCP義務化の対象外となります。また、食品の取り扱いに従事する職員(事務職員等をのぞく)の人数が50人未満の場合、よりアプローチが簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)」を実施することが認められています。
したがって、ほとんどの介護施設や高齢者施設では、改正食品衛生法の施行後、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の実現を目指すことになります。
HACCP導入の義務化の開始時期
それでは、HACCP導入の義務化はいつスタートするのでしょうか。改正食品衛生法の施行日は1年間の猶予期間が設けられていましたが、2021年6月1日より、すべての食品等事業者を対象として完全義務化されています。
介護施設や高齢者施設においても、HACCP対応が遅れている場合は、早急に衛生管理体制の見直しが必要です。改正食品衛生法には、HACCPの義務化に従わなかった場合の罰則は明記されていません。しかし、都道府県知事が定める罰則や、営業停止などの行政処分が下される可能性があります。
HACCP導入によって変わること・メリットは?
多くの介護施設や高齢者施設は人材難に苦しんでおり、限られたスタッフで介護サービスを提供しています。そのため、HACCP義務化は現場のスタッフの負担増につながるのではないかと懸念されています。しかし、HACCP導入にはデメリットだけでなく、メリットもいくつかあります。
- ◯スタッフの衛生意識がより向上する
- ◯利用希望者に対し、食事の安全性をアピールできる
- ◯食事への苦情やクレームを未然に防止できる
- ◯施設の衛生状態をより清潔に保つことができ、利用者のQOLが改善する
とくに高齢者の場合、食品への異物混入や食中毒は命に関わる恐れがあります。高齢者の方が安心安全に利用できるサービスづくりのため、HACCPに沿った衛生管理の実現に向けて取り組みましょう。
介護現場でHACCPに沿った衛生管理を実施するには?
前述の通り、提供食数が20食以上の介護施設や高齢者施設では、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)」を実施する必要があります。
厚生労働省によると、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理とは、「各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う」ことを意味します。[注1]介護施設・高齢者施設の場合、以下の手引書やマニュアルを参照しましょう。
厚生労働省 | 食品製造におけるHACCP入門のための手引書[大量調理施設における食品の調理編] |
---|---|
大量調理施設衛生管理マニュアル | |
一般社団法人日本医療福祉セントラルキッチン協会 | 医療・福祉施設を対象とするセントラルキッチンにおけるHACCPの考え方を取り入れた手引書 |
公益社団法人日本給食サービス協会 公益社団法人日本メディカル給食協会 |
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書~委託給食事業者~ |
それでは上記のマニュアルを元にして、介護施設・高齢者施設におけるHACCPの導入ステップについて解説していきます。
衛生管理計画を策定する
まずは衛生管理計画を作成しましょう。衛生管理計画とは、食品を利用者に提供するまでの過程で、「いつ」「どのように」衛生管理を行うのかや、「問題が発生したとき」にどう対応するのかを定めるものです。
すでに食品衛生に関するルールが存在する場合は、既存のルールをベースにしながら、HACCP対応に向けて足りない部分を補っていく方法がおすすめです。衛生管理計画は、食品の安全を守るためのごく基本的な衛生管理である「一般衛生管理」と、業種によって重点的な管理が必要になる「重要管理」の2種類に分けて作成する必要があります。
以下は介護施設や高齢者施設を想定した一般衛生管理、重要管理の具体例です。[注2]
項目 | 理由 | |
---|---|---|
一般衛生管理 | 食品取扱者の衛生管理(健康管理) | 菌やウイルスを厨房へ持ち込むことを防止するため |
手洗い | 食品への二次汚染を防止するため | |
使用水の管理 | 安全な水を調理に使用するため | |
検食の実施 | 有事の際に早急な原因究明を行い被害の拡大を抑えるため | |
緊急時の対応 | 重大な事故が発生した場合、速やかな措置をとるため | |
重要管理 | 冷機器の温度管理 | 庫内に保管されている食品中の菌の増殖を抑えるため |
受入れ原材料の確認 | 食品事故や異物混入、クレームの発生を未然に防ぐため | |
生食用野菜・果物の殺菌 | 確実に殺菌を行うため | |
加熱時の温度管理 | 確実に加熱殺菌を行うため | |
冷却時の温度管理 | 芽胞菌の増殖を抑えるため |
衛生管理計画の作成に不安がある場合は、厚生労働省等の手引書やマニュアルに添付された様式をそのまま使うこともできます。
[注2]公益社団法人日本給食サービス協会、公益社団法人日本メディカル給食協会:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書~委託給食事業者~[pdf]
衛生管理計画に基づいて実行する
衛生管理計画を策定したら終わりではなく、衛生管理計画に基づいてきちんと衛生対策を実施しましょう。そのためには、従業員への衛生教育や、朝礼での意識啓発、OJT形式での実習などの手段により、従業員の衛生意識を高める必要があります。
また、現場の責任者が定期的にモニタリングを実施し、従業員が問題なく衛生管理を実施しているか、衛生管理計画に抜け・漏れがないかをチェックすることも大切です。
衛生管理記録をつける
HACCPに沿った衛生管理では、「衛生管理記録をつけること」が非常に重要です。衛生管理記録をきちんとつけていれば、万が一食品事故が発生した場合に、衛生管理記録を参照してすみやかに原因究明を行えます。
また、営業の許可・届出の際や、都道府県が定める定期立入検査の際に、保健所による立ち入り検査が行われるケースがあります。その場合も、衛生管理計画や衛生管理記録がそろっていれば、第三者に施設内の衛生管理の安全性をアピールすることができます。
まとめ
2021年6月1日からスタートしたHACCP義務化の対象事業者には、介護施設や高齢者施設もふくまれます。HACCPに対応することで、「スタッフの衛生意識がより向上する」「利用者のQOLが改善する」といったメリットがあります。
HACCPを導入する際は、厚生労働省が作成した「HACCP入門のための手引書」などを参考にし、衛生管理計画に基づいて既存の体制を見直すことが大切です。利用者の安心安全のため、HACCPに沿った衛生管理を取り入れましょう。
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