HACCPによる衛生管理とは?各国の導入状況も解説
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に基づく衛生管理により、食の安全を科学的な根拠に基づいて守ることができます。
ここでは、HACCPによる衛生管理がどういうものかや、各国の導入状況を解説します。
科学的な根拠に基づくHACCPの衛生管理
HACCPによる衛生管理では、原料の受け入れ・製造・出荷のすべての工程で、食の危害要因(ハザード)を取り除くことを目指します。
HACCPで想定する食の危害要因は、主に生物学的要因、化学的要因、物理的要因の3種類です。
生物学的要因 | 食中毒菌をはじめとした病原微生物の繁殖 |
---|---|
化学的要因 | 残留農薬、抗生物質、洗剤、消毒剤などの化学物質の混入 |
物理的要因 | 金属片、ガラス片などの混入 |
食の危害要因を取り除くため、HACCPでは管理基準(CL)を設定し、各工程が基準値を満たしているかどうかモニタリングを行います。管理基準には、たとえば「食品の保管温度」「焼成時間の長さ」などがあります。
とくに危害要因が発生しやすい工程を重要管理点(CCP)と呼び、厳格な管理・監視が必要です。
HACCPの世界各国の導入状況
HACCPによる衛生管理は、日本に先駆けて世界各国で導入が進んでいます。厚生労働省の調べをもとに、世界各国のHACCP導入状況をまとめました。[注1]
アメリカ | 1997年 | 州を越えて取り引きされる水産食品、食肉・食鳥肉及びその加工品、果実・野菜・飲料について、順次、HACCPによる衛生管理を義務付け |
---|---|---|
カナダ | 1992年 | 水産食品、食肉、食肉製品について、順次、HACCPを義務付け |
オーストラリア | 1992年 | 輸出向け乳及び乳製品、水産食品、食肉及び食肉製品について、順次、HACCPを義務付け |
EU | 2006年 | 一次生産を除く全ての食品の生産、加工、流通事業者にHACCPの概念を取り入れた衛生管理を義務付け |
日本でも国際的な意識の高まりを受け、HACCP導入に向けた動きが強まりました。
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HACCPによる衛生管理と従来の衛生管理の違い
HACCPによる衛生管理と従来の衛生管理には、どんな違いがあるのでしょうか。
従来の衛生管理は、食品を出荷する前の「抜き取り検査」が主流でした。抜き取り検査とは、製品製造の最終過程で、食品サンプルを抜き取り、衛生検査を行う手法です。
抜き取ったサンプルの検査が合格でも、その他の食品の衛生状態に問題が発生するケースもあり、抜き取り検査だけでは完全に食品事故を減らすことはできませんでした。
HACCPによる衛生管理は、出荷前の最終工程だけでなく、原料の受け入れ・製造・出荷のすべての工程で、管理基準(CL)に基づく衛生管理を徹底します。
各工程で食の危害要因(ハザード)を取り除いていくため、最終的な製品の安全性が抜き取り検査よりも高くなります。管理運用の雑務が増加しますが、HACCPによる衛生管理は欠かせないものになりつつあります。
HACCPによる衛生管理を導入する7つのメリット
厚生労働省が182,857施設を対象に行なった調査によると、HACCPによる衛生管理の導入には、次の7つのメリットがあることがわかりました。[注2]
社員の衛生管理に対する意識が向上した | 78.2% |
社外に対して自社の衛生管理について根拠を持ってアピールできるようになった | 43.1% |
製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった | 37.7% |
クレーム・事故が減少した | 32.3% |
ロス率が下がった | 10.1% |
HACCPを求める事業者(小売業者等)との取引先が増えた | 9.7% |
生産効率が上がった | 9.0% |
HACCPによる衛生管理を導入することで、食品事故によるクレームの減少や、不具合が発生した際の対応の迅速化など、自社の食品衛生管理体制を大きく強化できます。
また、社員の衛生管理の意識向上や、「衛生管理に取り組む企業」という対外的なイメージの醸成など、社内外に渡ってメリットが得られるのも特徴です。
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日本におけるHACCPの義務化と罰則
世界各国のHACCP導入の流れを受けて、日本でもHACCPの義務化に向けた動きがはじまりました。ここでは、HACCPの義務化内容や罰則を見ていきます。
2021年6月からHACCPが完全義務化
2020年6月に「食品衛生法等の一部を改正する法律」が交付され、日本でもHACCPの義務化がスタートしました。ただし、1年間の猶予期間が設けられているため、HACCPの完全義務化は2021年6月からです。
HACCPに基づく衛生管理の実現に向けて、早い段階から対応を進めましょう。
なお、厚生労働省は「原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める」としています。[注3]
しかし、業種や事業規模によっては、衛生管理の人的リソースの捻出や、新たな設備投資が難しいケースもあります。そうした事業者に対しては、厚生労働省は「取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理」を義務付けており、厳格なHACCP対応は求められていません。[注3]
HACCPの義務化に違反した場合の罰則
実は、改正食品衛生法では、HACCPの義務化に違反した場合の罰則は具体的に決められていません。
しかし、だからといってHACCPの罰則がないわけではありません。改正食品衛生法には、都道府県知事などは、公衆衛生にいて必要となる措置は、規定の基準に反さない限りであれば条例で必要な規定を定められることが記載されています。
なお、地方自治法では、都道府県知事は「2年以内の懲役」または「100万円以下の罰金」を罰則として設けることができます。もしHACCP対応を行わなかった場合、罰金刑や懲役刑、または営業許可証の更新停止など、さまざまな罰則が課される可能性があります。そのため、早い段階からHACCP対応を進めることが大切です。
HACCP導入のための手順は?HACCPの7原則12手順を解説
HACCP導入のための手引きが「7原則12手順」です。厚生労働省の「食品製造におけるHACCP入門のための手引書」に基づき、ポイントを解説します。[注4]
手順1 | HACCPチームの編成 | 製品を作るための情報がすべて集まるように、各部門の担当者が必要です |
---|---|---|
手順2 | 製品説明書の作成 | 製品の安全管理上の特徴を示すものです |
手順3 | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 | 体の弱い人のための食品ならば、より衛生等に気をつけることが大事だからです |
手順4 | 製造工程一覧図の作成 | 工程について危害要因を分析するためのものです |
手順5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 工程が勝手に変更されていないか、間違いがないかを確認します |
手順6 (原則1) |
危害要因の分析 (食中毒菌、化学物質、危険異物など) |
原材料や製造工程で問題になる危害の要因を挙げます |
手順7 (原則2) |
重要管理点(CCP)の決定 (つけない、増やさない、殺菌するなどの工程手順) |
製品の安全を管理するための重要な工程(管理点)を決定します |
手順8 (原則3) |
管理基準(CL)の設定 (温度、時間、速度など) |
重要管理点で管理すべき測定値の限界(パラメーターの許容限界。例えば、中心温度)を設定します |
手順9 (原則4) |
モニタリング方法の設定 (温度計、時計など) |
管理基準の測定方法(例えば、中心温度計での測定方法)を設定します |
手順10(原則5) | 改善措置の設定 (廃棄、再加熱など) |
あらかじめ管理基準が守られなかった場合の製品の取扱いや機械のトラブルを元に戻す方法を設定しておきます(例えば、廃棄、再加熱など) |
手順11 (原則6) |
検証方法の設定 (記録、検査など) |
設定したことが守られていることを確認します |
手順12 (原則7) |
記録と保存方法の設定 | 検証するためには記録が必要です。記録する用紙と、その保存期間を設定します |
HACCPによる衛生管理に取り組むうえで、とくに重要なのが7原則です。
「手順6(原則1)危害要因の分析」と「手順7(原則2)重要管理点(CCP)の決定」では、食の安全を脅かす危害要因(ハザード)を特定し、各工程のうち危害要因が発生しやすい重要管理点(CCP)を決定します。
次に、「手順8(原則3)管理基準(CL)の設定」と「手順9(原則4)モニタリング方法の設定」で、危害要因を発生させないための管理基準(CL)を決め、各工程で管理基準が守られているかどうかをモニタリングする方法を設定します。
危害要因を予防するための仕組みづくりだけでなく、万が一食品事故が発生した場合の対応方法を決めることも大切です。
「手順10(原則5)改善措置の設定」と「手順11(原則6)検証方法の設定」では、管理基準を逸脱した場合の対応方法を決め、定期的にHACCPプランの見直しを行います。
また、HACCPプランの有効性を検証するために、「手順12(原則7)記録と保存方法の設定」で、衛生管理の記録をつけることが大切です。
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危害要因分析とは?チェックが必要な7つの項目
食品事故を防ぎ、食品衛生管理を強化するために欠かせないのが、「危害要因分析」です。危害要因分析の考え方や、チェックすべき項目を解説します。
食品事故を防ぐために欠かせない危害要因分析
危害要因分析とは、食品事故につながる可能性がある潜在的な要因(=ハザード)を洗い出し、ハザードの起きやすさや、ハザードが発生した場合の被害の大きさを明らかにすることです。
たとえば、病原微生物が食品表面で繁殖すると、食中毒のリスクが高まります。原料の受け入れ・製造・出荷のすべての工程で、食品の危害要因を洗い出し、必要な衛生対策を考案するのが危害要因分析の目的です。
危害要因分析に基づき、必要な作業手順(SSOP)を現場に反映させるため、「衛生管理計画書」を作成するのが一般的です。
衛生管理計画書でチェックが必要な7つの項目
食品の危害要因を取り除くため、チェックが必要な項目は7つあります。
施設 | 食品を加工・製造する施設を清潔に保ち、二次汚染や異物混入の対策をしているか |
---|---|
食品取扱い設備 | 食品を加工・製造するとき、器具や機器を消毒し、二次汚染や異物混入の対策をしているか |
防虫・防鼠 | 食品がある場所に昆虫や鼠が存在しないか |
廃棄物および排水 | 食品のそばに廃棄物および排水が存在しないか |
使用水 | 使用水の水質検査や残留塩素の検査を行っているか |
食品の取扱い | 原材料の受け入れを行うとき、状態を確認しているか 食品の保管を行うとき、二次汚染や異物混入の対策をしているか |
食品の処理 | 食品の加工・下処理を行うとき、二次汚染や異物混入の対策をしているか |
衛生管理計画書のチェック項目に基づき、現場の作業者の作業手順(SSOP)を決めます。HACCP導入にあたって、まずは衛生管理計画書を作成しましょう。
衛生管理計画書作成を効率化
(UPR様編集箇所)
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HACCPによる衛生管理のポイントを知り、義務化に向けて対応を
アメリカ・カナダ・オーストラリアなどが、日本に先駆けてHACCPを導入したのを受け、日本でもHACCPに基づく衛生管理の義務化に向けた動きが高まりました。
すべての食品等事業者は、HACCPの導入に向けて、「7原則12手順」に基づく取り組みが必要です。
食品衛生管理を強化するうえで、とくに重要なのが「危害要因分析」です。危害要因分析では、「施設」「食品取扱い設備」「防虫・防鼠」「廃棄物および排水」「使用水」「食品の取扱い」「食品の処理」の7つの観点から、食品の危害要因を洗い出し、必要な作業手順(SSOP)を決めます。
HACCP導入にあたっては、まず「衛生管理計画書」を作成し、全体の方針を決定することが大切です。
[注1]厚生労働省:HACCP導入普及推進の取組[pdf]
[注2]厚生労働省:HACCPの普及・導入支援のための実態調査結果[pdf]
[注3]厚生労働省:食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日公布)の概要[pdf]
[注4]厚生労働省:食品製造におけるHACCP入門のための手引書[pdf]