RFIDの通信距離とは、距離が長いことのメリットや測定方法を解説
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RFIDとは
RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波のやりとりを通じてデータを読み書きするためのシステムです。RFIDタグにリーダーをかざすだけで、非接触でスキャンすることができます。
これまで小売店や物流倉庫等で使われてきたバーコードとの違いは、複数のタグの読み取りや、10m程度の距離が離れたタグの読み取りが可能な点です。特にRFIDならではの通信距離の長さは、レジ業務や入退室管理、物流業務、交通系ICカード等、様々なシーンで役立っています。
参考記事:RFIDとは?特徴や導入事例を解説!
RFIDの通信距離を決める要因とは
通信方式の種類
RFIDの通信距離は、10~50cmと近距離のものから、5~10mと比較的長距離のものまで様々です。RFIDの通信距離を決める要因は3つありますが、その中でも、特に影響が大きい要因がRFIDの通信方式です。
RFIDの通信方式は「電磁誘導方式」と「電波方式」の2種類があります。さらに、電磁誘導方式はLF帯(Low Frequency)を使うものとHF帯(High Frequency)を使うものに分かれます。以下に通信方式ごとの通信距離を表にまとめました。
電磁誘導方式(LF帯) | 電磁誘導方式(HF帯) | 電波方式 |
~数10cm以内 |
~50cm以内 |
~10m以内 |
電磁誘導方式
電磁誘導方式は、電磁コイルのアンテナが生み出す電流(誘導起電力)を活用してデータの読み書きを行う通信方式です。近年普及しつつある「ワイヤレス給電」にも電磁誘導方式が用いられています。
電磁誘導方式は、LF帯とHF帯の2種類の周波数帯で通信します。LF帯の場合は主に135kHz以下、HF帯の場合は13.56MHzの周波数帯が使われることが一般的です。LF帯は古くから使われてきた通信方式ですが、近年はHF帯のRFIDがよく利用されています。
HF帯は通信距離が約50cm以下と短いものの、RFIDタグの小型化や薄型化が可能なため、交通系ICカードや電子マネーカードに搭載されています。
電波方式
一方、電磁誘導方式よりも通信距離が長いのは電波方式のRFIDです。電波方式は放射電磁波を活用し、RFIDタグへの電力供給とデータの送受信を行っています。電波方式のRFIDが利用する周波数帯は、主に周波数860~960MHzのUHF帯(Ultra High Frequency)です。場合によっては、2.45GHzのマイクロ波が使われることもあります。
UHF帯の通信距離は約5~10m、マイクロ波の通信距離は数mと比較的長く、電磁誘導方式よりも長距離のデータ通信が可能です。そのため、比較的距離のあるRFIDタグを読み取りたい場合や、複数のタグを同時に読み取りたい場合に電波方式のRFIDが役立ちます。
リーダーライターの電波出力の強さ
RFIDの通信距離に影響する要因の2つ目が、「リーダーライターの電波出力の強さ」です。RFIDタグを読み取る際は、対応するリーダーライターを付近にかざし、電波のやりとりを行います。リーダーライターの電波出力が大きければ大きいほど、遠く離れたRFIDタグを読み取ることが可能です。
タグやリーダーライターのアンテナ利得状況
さらに3つ目の要因が、RFIDタグやリーダーライターの「アンテナ利得状況」です。RFIDは通信電波を効率よく読み取るため、タグやリーダーライターに内蔵されたアンテナで電波を集束させます。
アンテナの利得(ゲイン)とは、アンテナが電波を受け取るときのロスの少なさを意味します。アンテナ利得状況はデシベル(dB)で表され、利得が高ければ高いほど効率的に電波を受信することが可能です。ただし、利得が大きすぎるとアンテナの指向性が高くなり、狭い範囲の電波しか受信できなくなる可能性があります。
また、アンテナが直接受信した「直接波」だけでなく、遮蔽物に反射した「反射波」もキャッチしてしまう場合があるため、事前にアンテナの現場テストを実施することが大切です。
リーダーライターの使い方は距離によって異なる
リーダーライターの電波出力は、RFIDの通信距離に影響を与える要因の1つですが、ただ単に電波出力を大きくすればよいわけではなく、利用シーンに合わせた調整が大切です。
例えば、長距離や広域の通信が必要な場合は電波出力を大きく、近距離や狭域の通信で問題ない場合は電波出力を弱くすることで、効率的にRFIDを運用できます。
UHF帯RFIDの電波出力の種類
UHF帯のRFIDは、大きく分けて「特定小電力(250mW)」と「高出力(1W)」の2種類の電波出力に対応しています。
海外には1Wを超える電波出力のRFIDリーダーライターも存在しますが、日本国内では電波法によって認められていません。電波出力の種類によって、RFIDタグの通信距離のほか、電波利用申請や電波利用料の有無等に違いがあります。
特定小電力
特定小電力とは、電波出力が250mW以下のRFIDリーダーライターを指す分類です。リーダーライターの電波出力が小さいため、他のUHF帯のRFIDよりも通信距離が短く、狭い範囲の通信を行う場合に利用されます。
通信可能な距離は最大で約1mです。特定小電力のリーダーライターを利用するメリットは、電波出力が小さいため比較的省電力である点と、「電波利用申請や電波利用料の支払いが不要になる」という点にあります。
高出力
一方、高出力のRFIDリーダーライターは、電波出力が250mWを超え1W(1,000mW)を下回るものを指します。特定小電力のリーダーライターよりも電波出力が大きく、最大で数mの通信が可能です。
ただし、高出力のRFIDリーダーライターを運用する場合、あらかじめ総務省に電波利用申請を行い、所定の電波利用料を支払う必要があります。仮にリーダーライターの運用時に電波出力を制限しても、導入した段階で電波利用申請が必要です。
通信距離が長いRFIDのメリット
複数のタグを同時にスキャンし、読み取り作業を効率化できる
長距離・広域の通信が可能なUHF帯のRFIDを利用すれば、複数のタグを同時に読み取ることが可能です。バーコードのようにタグを1枚ずつ読み取る場合と比較して、読み取り作業を大幅に省力化できます。
特に導入効果が期待されているのが、検品やピッキング、棚卸しや入出庫等の作業を行う物流倉庫です。RFIDタグを段ボールごと読み取ったり、パレットごと一括で商品を検品することも可能なため、業務効率化につながります。
高所作業等に従事する従業員の安全を確保できる
工場や倉庫、物流センターでは、商品を2m以上の高所に保管する場合があります。通信距離が長いRFIDを導入すれば、従業員がはしごや脚立に登って作業する必要がないため、安全を確保できます。
例えば、UHF帯のRFIDを導入し、高出力タイプのリーダーライターを利用すれば、5~10mの高さのタグも読み取ることができます。特に倉庫や物流センターでは、転落や転倒、無理な動作等の労働災害が頻発しているため、RFIDの導入を検討することが推奨されています。
商品の位置情報を取得し、ロケーション管理に役立てられる
近年、急速に発展しつつあるのがRFIDを活用した位置特定技術です。RFIDが読み取れるのは、事前に書き込んだ商品の識別情報だけではありません。通信距離が長いRFIDを上手く活用すれば、商品の位置情報を取得し、ロケーション管理に役立てることも可能です。
専用のリーダーライターが必要にはなりますが、位置特定技術に対応したRFIDを活用すれば、商品がある場所や方向等の位置情報を広範囲で取得できます。そのため、倉庫や物流センターにおけるロケーション管理の一環として、RFIDを活用する企業が増えてきています。
RFIDとの距離の測定方法
ここまで、RFIDの通信方式ごとの通信距離や、リーダーライターの電波出力と通信距離の関係について説明しました。さらに、RSSI(Received signal strength indication)と呼ばれる信号を活用すれば、特定のタグとの距離を計算することが可能となります。ここからは、RSSIを活用した距離測定の方法や注意点を解説します。
RSSIとは
RSSIとは、日本語で「受信信号強度」と呼び、特定の対象から受信した電波の強度を表します。RSSIの数値の範囲は一般的に-20から60です。RSSIを取得したい場合、あらかじめRFIDリーダーライターの設定を変更し、RSSIの読み取りを可能にしておく必要があります。
RSSIを活用した距離測定
RSSIは、RFIDタグが受信した電波強度を測定するための指標です。一般的には、RFIDタグとリーダーライターの距離が離れるほど、RSSIの数値は小さくなります。つまり、RSSIの数値を取得することで、RFIDタグまでの距離を測定することが可能です。
RSSIを活用し、RFIDタグの電波強度を計測するときの流れは以下の通りです。
- RFIDリーダーライターから特定のRFIDタグに電波を送信する。
- RFIDタグが電波を受信し、その強度を測定してRSSIの数値をメモリ領域に格納する。
- RFIDタグがRFIDリーダーライターに電波を送信し、RSSIの数値を返す。
RSSIを活用した距離測定は、先ほど紹介したRFIDの位置特定技術にも活用されています。また、単にRFIDタグの距離を測定するだけではなく、RFIDタグのフィルタリングにも利用可能です。特定のRSSI値のRFIDタグのみ読み取るようにリーダーライターを設定すれば、不要なタグを読み込まずに作業できます。
RSSI活用の注意点
RSSIを活用した距離測定の注意点は、「必ずしも正確なRSSI値を取得できるとは限らない」点です。RSSIの数値は、RFIDタグの周辺環境に大きな影響を受けます。例えば、RFIDタグの周囲に水分や金属物がある場合、正確なRSSI値を測定できないことがあります。
RSSIを活用する場合は、あらかじめ運用場所で読み取りテストを実施し、「正確にRSSI値を取得できているか」「取得したRSSI値と実際の距離は合致しているか」を確認しましょう。
RFIDの導入事例
従来のバーコードに代わって、複数のタグの同時読み取りが可能なRFIDは様々なシーンで利用されています。例えば、RFIDを利用したスマートパレットが一例です。
アクティブRFIDタグを搭載した「スマートパレット」であれば、パレットの倉庫内在庫や、いつ入庫・出庫したかの管理を自動化します。紛失・滞留を解消し、煩雑な紙伝票管理もなくなり、物流機器の稼働率アップ等が期待できます。
スマートパレットの詳細はこちら
https://www.upr-net.co.jp/logistics/smartpallet/
スマートパレットの導入事例はこちら
https://www.upr-net.co.jp/case/smartpallet
まとめ
RFIDの通信距離は、LF帯やHF帯、UHF帯等の通信方式によって異なります。また、リーダーライターの種類もRFIDの通信距離に大きく影響します。そのため、RFIDの導入目的に合わせて、最適な通信方式やリーダーライターを選ぶことが大切です。
また、通信距離の長いRFIDを導入すれば、読み取り作業を効率化したり、ロケーション管理に活用したりすることもできます。RFIDの通信距離を測定したい場合は、RSSIの活用も検討しましょう。
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